2010年11月28日日曜日

書評:『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』


書評:残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 橘玲著 幻冬舎


私はちょっとあまのじゃくなところがあって、売れている本、評判になっている本はそれほどすぐに読みたいとは思いません。ですので、この本についてもそれほど期待しないで読んでみたのですが、意外に結構、面白い本でした。扱っているトピックは非常に多岐にわたるのですが、特に難解なところもなく、スラスラ読むことができました。



あの勝間・香山論争を引き合いに出しながら、自己啓発で自分を変えることができるのか、という問題について進化生物学の知見を援用しながら、「できない」、という残酷な結論を受け入れることが必要であることを著者の橘さんは説いています。つまり、人間の能力や特性はかなりの部分が遺伝的な要素によって決定されており、個人の能力に応じて仕事の選択や報酬が決定されるべきであり、このことは道徳的にも正しい、と橘さんは主張しています。

またこの本には「愛情空間」と「貨幣空間」という2つの重要な概念が出てきます。「貨幣空間」というのは現代になってできてきたいわば後天的な空間であり、遺伝的に適応することが求められる「愛情空間」ほど人間にとって重要視されていない、と橘さんは説明しています。ところがこの「愛情空間」は閉鎖的な空間である故、そこに順応できない人にとっては「残酷な世界」に変質してしまう世界でもあります。学校や会社という閉鎖的な空間でいじめや嫌がらせのためにうつ病になったり自殺したりしないためにも、開放的な空間である「貨幣空間」に慣れ親しむことが必要である、と橘さんは考えているようです。

貨幣空間では評判(信頼できる人であるとか、まわりの人から一目置かれるような人とか)が個人の資本価値を測る物差しになるため、良い評判を得ることがこの空間で生きていくために重要になります。愛情空間に限らず、貨幣空間においても、他人から認められることで人間は幸福を得ることができるので、金銭上の報酬を度外視して、好きなことをやるのが最良の方策だと橘さんは考えているようです。

この本、ブックカバーのイラストなどがちょっと「キワモノ」っぽい印象を与えるだけに、「たいした内容じゃないんじゃないの」と思われるかも知れませんが、なかなか読みごたえのある良書だと思いました。

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