本書は話題の新書で、つい先日も本屋で山積みになっているのを見かけました。私のような将棋ファンは、本書の中でも特に羽生さんがどのように将棋をとらえているのか、あるいは他の棋士をどのように評価しているのか、という点に最大の関心を持って読む方が大半だと思いますが、本書はそのような点に関し、将棋ファンの読者の期待を裏切らない内容になっています。ただ本書は将棋ファンだけでなく、将棋に関心のない人にとっても興味深い話が数多く、あります。
特に本書の第1章3節(「リスクをとらないことは最大のリスクである」)という箇所は個人投資家にとって非常に示唆に富む内容だと思います。もちろん、羽生さんは「リスク」という語を「冒険」とか「危険」といった一般的な意味で使っており、金融理論上の特殊な意味と直接的な関連はありませんが、「手堅く安全に(p.41)」という姿勢だけではリターンが得られない、という点は投資についてもあてはまると思います。確かにポートフォリオにおける債券や現金の比率が高ければ手堅いように思われますが、世界の経済状況、特に日本の財政状態などを鑑みると、このような手堅い運用が実は最もリスクが高いように思われます。
また、第1章4節では「ミス」について書かれてあるのですが、これも投資をする上で非常に参考になると思います。羽生さんはミスが生じる原因を①「状況認識を誤っているケース(p.45)」、②「感情や心境に左右されて正しい判断ができなかったケース(同上)」という二つのケースに分類した上で、ミスを犯した場合の対処法(一つは「それまでのことはすべて無にする(p.51)」、そしてもうひとつは「忘れる(同上)」)についても提示しています。投資にあてはめて考えると、株価が天井近辺にあっても「まだまだ上がる」と思って高値掴みをしてしまったり(これは①のケースです)、含み損が膨らみ、ヤケクソでナンピン買いをしてしまったり(②のケース)、投資にミスはつきものですが、対処法として羽生さんが提示された方法は示唆的です。自分が犯した投資判断のミスは潔く認めて損切りするか、あるいは「本当に忘れてしまう」ことで対処するより仕方がないのかも知れません。
最後に、羽生さんは色々な企画でこれまで多くの有名人と対談されていますが、そのような有名人の方々についての印象なども率直に述べられており、このようなエピソードも一般読者にとって楽しく読めると思います。
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